司法試験(環境法) written by 76期弁護士 佐藤 和樹
目次
1 はじめに
司法試験・予備試験の環境法の勉強方法について、悩まれている方は多いと思います。選択科目の1つである環境法に興味はあるものの、どのような問題が出題され、そもそも出題範囲はどこからなのか等がわからないため、どうしも敬遠してしまっている方もいらっしゃるでしょう。環境法は受験者数が非常に少ないため、環境法に関する情報が不足しているのが現状です。
そこで、このコラムでは、司法試験・予備試験の環境法の出題傾向や勉強方法等について、具体的に掘り下げてご説明します。
このコラムを読めば、環境法の出題傾向や勉強方法等がわかりますので、ぜひご一読ください。
2 環境法とは?特徴は?
環境法とはどのようなことを勉強する科目でしょうか。
まずそもそも環境法という名前の法律それ自体は存在しません。環境法とは環境10法と呼ばれる法律の総称をいい、司法試験の環境法はこの環境10法を学習することになります。具体的には、環境基本法、環境影響評価法、大気汚染防止法、水質汚濁防止法、土壌汚染対策法、循環型社会形成推進基本法、廃棄物処理法、容器包装リサイクル法、自然公園法、地球温暖化対策推進法の10個の法律です。
個別法が多いイメージがありますが、主に勉強すべきは環境訴訟(主に行政訴訟の訴訟要件を検討する問題)と法政策(主に条文や制度の趣旨それ自体を回答することが多いです)が出題されることが多い特徴があります。
そのため、司法試験の環境法は行政法との親和性が高い傾向にあります。
3 選択者の割合と人気度
ここでは、環境法の選択者の割合と人気度についてご紹介します。
直近の環境法の選択者の割合をみますと、令和5年度では司法試験では3.5%、予備試験では2.71%にとどまっています。
他方で、令和4年から令和元年では、司法試験で概ね5%前後、予備試験でも2.6%(令和4年度)を推移しており、例年5%以下を推移している傾向にあります。
過去数年の推移をみても、環境法は受験者数が非常に少なく、直近においてもその減少傾向がとどまることがないため、今後もより一層、司法試験の選択科目で環境法を選択する人は減少する傾向にあるといえるでしょう。
また、他の選択科目と比較しても、環境法は選択科目8つのなかでも国際公法や租税法と並んで受験者数が少ない科目です。そもそも、環境法という法分野に馴染みがないこと、及び行政との関連性が強いといっても行政法自体も苦手意識をもっている受験者の割合が比較的多いこと等から、司法試験の受験者にとっては環境法を選択する人は比較的少ない傾向になっているのが現状です。
4 環境法の出題範囲、問題形式、配点
1 環境法の出題範囲
例年の司法試験の環境法では、設問が3つ前後出題される傾向にあります。そして、出題範囲は、上述した環境10法(環境基本法、環境影響評価法、大気汚染防止法、水質汚濁防止法、土壌汚染対策法、循環型社会形成推進基本法、廃棄物処理法、容器包装リサイクル法、自然公園法、地球温暖化対策推進法)の法律から出題されます。
一見すると、環境10法もあり、数が多い印象を受けるかたも多いと思います。ですが、1つ1つの個別法は条文数はそこまで多くありません。また、重要判例や論点も少ないため、出題範囲の広さと比較してもそこまで覚える量は多くない科目の1つです。
2 環境法の問題形式
環境法の問題形式は例年設問が3つ前後出題されています。出題されている事例問題をみると、そこまで長文の問題が出題されているわけではありません(むしろ、他の科目と比較してもかなり短文であるといえます)。
例年の傾向からすると、環境法の問題では、特定の法政策の問題点や解決策を検討する環境政策の問題、抗告訴訟等の行政訴訟や不法行為に基づく損害賠償請求訴訟などの環境訴訟の問題が出題されている傾向にあります。
3 環境法の配点
では、環境法の配点についてご紹介します。
法務省が公表している問題文上、各設問の配点については記載されていないため、それぞれの設問にどれくらいの配点がなされているのかはわかりません。
100点満点であり、設問が2つ設けられていることからすると、一般的には各設問ごと均等割合で配点が割り振られていると考えるのが通常です(もっとも、法務省が正式に公表をしていない以上、配点については確定的なことはわかりません)。
5 環境法の勉強法
ここでは、環境法に関する具体的な勉強法についてご紹介します。環境法は、出題範囲が上述したように環境10法から出題されます。もっとも、個別法それぞれの条文数や暗記数は少なく、また、行政訴訟との関係性も意識した勉強をすることが大切です。
そこで、ここでは出題傾向の強い、環境訴訟の問題に対する勉強法と、環境政策の問題に対する勉強法を区別してご紹介します。
1 環境訴訟の問題対策
環境訴訟に関する出題は、行政訴訟の問題と民事訴訟の問題が多く、問われている内容も行政訴訟であれば、訴訟選択(取消訴訟、差止訴訟等)や訴訟要件(処分性、原告適格等)といった行政法の出題とも重複する内容、民事訴訟であれば不法行為に基づく損害賠償請求や差止請求、契約不適合責任といった民法の出題との重複がみられます。
このように、環境訴訟に関する問題は、行政法(特に行政事件訴訟法)と民事訴訟法の理解が前提となるため、漠然と環境10法を勉強するのではなく、先行して司法試験の必須科目である行政法と民事訴訟法の学習を進め、いずれの学習もある程度進んだ段階で環境法(環境訴訟の問題)の学習をするとより効率的な学習をすることができます。
2 環境政策の問題対策
環境政策の問題とは、解答者に現行の政策についての問題意識を持たせたうえで、今後どのような政策を採ることが適切であるかを論じさせる問題が出題されます。例えば、令和元年の環境法第1問設問2では、資料付きで「A県は…全窒素,全燐及び全亜鉛の環境基準を達成するため, 従来の対策に加え,どのような措置を採ることができるか…論じなさい。」というような問題が出ています。
このように、環境政策の問題では環境政策という制度の問題点や改善点を論じることになるため、制度の趣旨を根本から理解する必要があります(なお、司法試験の環境法では、政策自体を論じさせるようなアカデミックな出題はありませんのでご安心ください。あくまでも、条文の趣旨・条文の摘示をもとに論じることになります)。現に、出題趣旨や採点実感では、「適切な条文を引けているか。そのような法政策が採用されている趣旨をしっかりと理解できているか」といった観点から採点がなされています。
したがって、環境政策の問題においても、他の選択科目と同様に、環境10法の条文の構造や趣旨の理解をすることが非常に大切です。そのためには、問題演習もそうですが、基本書を読み込む際になぜこのような制度が設けられているのか、なぜ当該条文が存在するのか、等といった趣旨にまで遡って読み込む必要があります。
3 過去問演習を何度も繰り返すこと
そのうえで、制度の趣旨を理解したとしても、それを実際の答案に反映させることができなければ意味がありません。さらに、本試験でどのような問題が、どのように問われているのかも知らなければ本試験で苦労してしまいます。
特に、環境政策の問題では、環境政策の前提として環境法10法の制度趣旨を自分の言葉で答案に表現することが必須であり、また、制度趣旨それ自体は事前に理解や覚えていないと答案に表現することは困難です。そして、実際の本試験ではどのように問われているのかを事前に準備、対策をしておくことが肝要です。
環境法は他の科目と比較して、基本書や演習書が圧倒的に不足しています。ですので、より一層、過去問演習を行い、過去問の出題趣旨や採点実感から合格に必要となる答案はどの程度のレベルなのかを知っておく必要があるといえるでしょう。
その分、過去問を何度も繰り返すことで、出題者の傾向などを掴むことができます。基本書を読み込みつつ、過去問演習を何度も繰り返すことで司法試験環境法の学習をより効率的に進めることができるといえます。
6 まとめ
以上、司法試験の選択科目の1つである環境法について、具体的な勉強方法や試験内容、出題傾向などについてご紹介しました。
環境法は司法試験選択科目の中でも受験者が少ない科目の1つです。そのため、勉強教材が不足しており、適切に対策を取らなければ合格点を勝ち取ることはできません。ですので、本コラムを参照して頂き、環境法の勉強方法や学習ポイントを抑えて頂ければ、より確実に合格点を取ることが出来ます。
ぜひ、本コラムを何度も読んで頂き、司法試験環境法の学習に役立てて頂ければと思います。