憲法の基本書 written by 76期司法修習生 佐藤 和樹
目次
1 はじめに
司法試験の基本書は、数多く出版されており、どの本を選んだらよいのか迷われている方が大変多いと思います。
そこで、今回は、憲法の基本書について、ご紹介したいと思います。
なお、5段階評価で示していますが、これはあくまでも司法試験合格という目的に特化した評価であり、以下にご紹介する基本書はいずれも大変な名著である点は誤解なきようお願いいたします。
2 基本書
1 憲法第八版(芦部信喜・高橋和之著、岩波書店)
いわずとしれた「芦部本」、大著です。誰しもが憲法を学ぶ際にまずは手に取る本かと思います。
基本的人権から統治の分野まで、この1冊にまとまっており、芦部先生が亡くなられてからも、弟子であられる高橋先生が追記しており、現在もなお、新しい判例などを反映したうえで、出版されています。
本書の特徴として、一読しただけでは内容を理解することは難しく、他の基本書などを読み、理解を深めたうえで改めて読み返すことで、ようやく内容が理解できるという点です。つまり、読者が行間を読まなければならず、その点ではややわかりやすさに欠ける印象を抱きます。
また、現在では、憲法の基本書は充実しつつあり、司法試験合格という観点から、あえて芦部本を選択する必要性も乏しくなっているように感じます。
通読向き ★★☆☆☆
わかりやすさ ★★☆☆☆
おすすめ度 ★☆☆☆☆
https://www.iwanami.co.jp/book/b630275.html
2 憲法Ⅰ基本権、憲法Ⅱ総論・統治(渡辺康行他3名著、日本評論社)
新人本と言われる本になります。基本的人権と統治分野がそれぞれ分かれており、特に基本権に関する憲法Ⅰは大変おすすめです。
記載内容として、いわゆる3段階審査論を意識した項目立てになっており、通読をするだけで自然と3段階審査の思考過程を学ぶことができます。また、具体的な判例の引用も数多く、司法試験との相性も大変よいと思います。若干、分量が多い印象を受けますが、通読することは十分に可能です。
なお、憲法Ⅱの総論・統治分野については、論文に出題される可能性が低く、主に短答式の対策になるかと思いますので、憲法Ⅱは通読せず、短答式の勉強でわからないことがあった際に調べる辞書的な役割で十分かと思います。
通読向き ★★★★☆
わかりやすさ ★★★★★
おすすめ度 ★★★★★
https://www.nippyo.co.jp/shop/book/7111.html
https://www.nippyo.co.jp/shop/book/8364.html
3 基本憲法Ⅰ基本的人権(木下智史著、日本評論社)
予備校においても教鞭を執られている木下先生が執筆した本になり、司法試験を意識した記述になっており、大変おすすめです。
内容についても、非常にメリハリのついた記載がなされ、分量もそこまで厚くなく、通読向きです。大変わかりやすく記載されていることもあり、記載に物足りなさを感じる箇所も部分的にありますが、初学者から上級者まで幅広くおすすめすることができる一冊となっております。
通読向き ★★★★★
わかりやすさ ★★★★☆
おすすめ度 ★★★★★
https://www.nippyo.co.jp/shop/book/7356.html
4 憲法学読本(宍戸常寿他2名著、有斐閣)
あまりメジャーではないかもしれませんが、表現の自由に関する記述が大変秀逸かつ簡明です。表現の自由は、司法試験において頻出論点ですので、特に表現の自由について、深く理解を深めたいと考えられている方にとっては、おすすめの1冊となっております。
通読向き ★★☆☆☆
わかりやすさ ★★★☆☆
おすすめ度 ★★☆☆☆
https://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641227613
5 「憲法上の権利」の作法(小山剛著、尚学社)
三段階審査論をはじめて強く意識した本として、大変有名な本です。司法試験の答案の書き方がわからず、迷走していた際に通読をしましたが、基本権→制約→正当化の流れがわかりやすく記載されており、理解が深まりました。
また、消極的権利だけでなく、積極的権利や平等権についても、思考過程が明確に記載されている点が大きな特徴です(実際に司法試験でも、消極的権利が出題される傾向が高いですが、積極的権利や平等権も出題されており、当該権利についての論述方法を知っているか否かで答案の出来に大きな差異が生じているといえます)。
もっとも、内容はやや難解になっており、通読するのではなく、部分的に気になるところをつまみ食いするのがよいと思います。
通読向き ★★☆☆☆
わかりやすさ ★★☆☆☆
おすすめ度 ★★☆☆☆
http://www.shogaku.com/books/data/128.htm
6 憲法Ⅰ総論・統治、憲法Ⅱ人権(新井誠他3名著、日評ベーシック)
日評ベーシックシリーズの1つで、比較的薄く、通読向きです。
もっとも、他の基本書と比較すると、格別特徴があるわけでもないため、あえてこの本を軸にする必要性は乏しいと感じます。
通読向き ★★★☆☆
わかりやすさ ★★☆☆☆
おすすめ度 ★★☆☆☆
https://www.nippyo.co.jp/shop/book/8502.html
https://www.nippyo.co.jp/shop/book/8490.html
7 判例百選
受験生であれば誰でも知っている判例百選です。
憲法では、判例がどのような判断枠組を採用し、あてはめ、判断をしているのかを強く意識する必要があり、他の科目に比して、判例の重要度は高いです。
そこで、判例百選を用いで判例を勉強することをおすすめしますが、解説まですべて読み込む必要性はありません。まずは、抜粋された判旨部分をじっくり読み、理解し、ざっと流し読みする程度で解説を読み込めばよいと思います。
通読向き ★★★☆☆
わかりやすさ ★★☆☆☆
おすすめ度 ★★★☆☆
https://www.yuhikaku.co.jp/hyakusen
8 憲法(呉明植・弘文堂)
伊藤塾の講師である呉明植先生が執筆なされた伊藤塾基本書シリーズの1つです。予備校本とはいえ、非常に簡明かつ明快に司法試験にとって必要な情報を1冊にまとめており、大変おすすめすることができます。
さらに、論文だけでなく、短答式においても役に立つ本になっており、どの基本書を選ぶべきか迷われている方がいらっしゃったら、まずは手に取る価値がある1冊です。
通読向き ★★★★★
わかりやすさ ★★★★★
おすすめ度 ★★★★★
https://www.koubundou.co.jp/book/b600099.html
3 最後に
以上のように、憲法でおすすめの基本書についてご紹介しました。
上記にご紹介した本はあくまで一部ですので、上記記載を参考にしつつ、書店などでご自身で手に取り、内容をざっと読んだうえで合う合わないをご判断して頂ければと思います。