司法試験の勉強方法(総論) written by 76期司法修習生 佐藤 和樹
1 はじめに
司法試験(予備試験を含む)の勉強を進める中で、どのように勉強を進めていったらよいのかわからない受験生を大変多いと思います。
例えば、よく耳にするのは論証パターン(いわゆる「論パ」と言われているものです)の作成の成否です。論パを作成するのは暗記に走った勉強なってしまい、論理的な思考が身につかないため、司法試験の勉強が不適切であるといった議論です。
また、司法試験や予備試験の過去問を解くべきであるとよく言われていますが、「解く」といっても、試験時間と同じ時間で答案を作成すべきであるのか、出題趣旨や採点実感、基本書などを見つつ、制限時間にとらわれることなく完全答案を作成すべきであるのか等、疑問に思ってらっしゃる方は少なくありません。
そこで、この記事では、司法試験の勉強法(総論)と題して、主に①論パの是非と②過去問の取り扱い方、に着目してご紹介したいと思います(科目ごとの勉強方法については、また別記事にてご紹介します)。
2 論証パターンは弊害か
1 論パとは?
論パとは、論点ごとに問題提起と規範をまとめた論証パターン集をいいます。市販されている予備校の本の多くには、この論パが記載されていることが多いです。
司法試験で答案を記載する時間は非常に限られており、初見の論点については一からその場で論証を作成するのはなかなか難しいといえます。そのため、なるべく司法試験に出題されるであろう論点については、論パを作成し、覚えておくことで論証の時間を削減し、あてはめの時間を多く確保することができるというメリットがあります。
2 なぜ弊害だと言われているか?
では、そのような論パはなぜ司法試験受験界において弊害であると言われることがあるのでしょうか。
大きな理由としては、論パだけを形式的に覚えておけばよいという誤解が生じているからだと思われます。論パに記載されているものは、司法試験の限られた時間内にそのまま記載できることを想定して作成されており、理由付けや論証の流れは非常に厳選されています。そのため、論パには、いい意味では無駄が一切ありませんが、悪い意味では、なぜそのような論証になっているのかという議論の筋(論理の本質的部分)をきちんと理解しない受験生が一定程度生じてしまうおそれや無駄をそげ落とし過ぎているため、理由付けが不自然になっている等があります。
3 実際のところ、どうか?
そのうえで、結論からいいますと、論パは有益であり、ぜひ活用すべきです。
ですが、当然ながらそのまま形式的に暗記をするのではなく、市販されている論パを基礎としつつ、論理が不完全な論パについてはご自身で修正し、未記載の論パについては自分で作成をするという作業をすることが非常に有益であると考えます。
1から全て自分で論パを作成するとなると、膨大な論点をすべて網羅することには限界があり、非効率です。そのため、市販の論パを基礎とすべきです。市販されている論パは、司法試験の出題傾向を踏まえたうえで作成されており、論点漏れをある程度は防ぐことができます。
もっとも、市販されている論パは、論理の流れが不自然であることや、一部の論点が抜け落ちていること、自分の言葉で論証をした方がわかりやすいことも多いです。
ですので、あくまで市販されている論パは未完成なものとして捉え、ご自身で手を加えることで、自分だけの論証集を作成することが最も効率的で実効性のある司法試験の勉強法であると考えます。
私の場合は、市販の論証集をもとに、論理が不十分な論パやそもそも記載がない論点については、自らPCで作成し、市販の論証集に切り貼りすることで、自分だけでの論証集を作成していました。
3 過去問の取扱い方
1 過去問はすべて目を通すこと
過去問は全科目、最低限すべて目は通しましょう。その際は、問題だけでなく、採点実感と出題趣旨にも目を通すことが重要です。
特に、採点実感には、どの程度の記載をすれば優秀な答案となるのか(逆も然りです。このような論証をすると評価が下がることになる旨もわかります)、ある程度明確に記載されており、採点者が気になっていることを垣間見ることができます。
2 完璧答案を作成すること
そして、過去問は、制限時間を気にすることなく、基本書や出題趣旨、採点実感などをすべて参照したうえで、可能な限り、完璧答案を作成しておくべきです(その際は、手書きではなく、PCで作成すると加筆修正が容易なため便利です)。
完璧答案を作成することで、過去問の論点の理解が深まります。また、はじめから司法試験という限られた時間で厳選された論証をすることは無理があります。はじめは丁寧で完璧な論証を作成し、その上で、限られた時間で論証するにはどこをどう削除すべきであるのかといった思考(はじめから実践的な論証を作成するのではなく、徐々に無駄を削除することで実践的な論証に近づけていくイメージです)と辿るとよいでしょう。
4 まとめ
このように、司法試験の勉強法(総論)として、①論パは市販されているものをベースに、ご自身で加筆修正をすることでオリジナルの論パ集を作成すること、②過去問は最低でも全科目、採点実感及び出題趣旨を踏まえて目を通すこと、そのうえで完璧答案を作成しておくこと、の2点が重要であると考えます。