民法の基本書 written by 76期司法修習生 佐藤 和樹
目次
1 はじめに
今回は、民法の基本書について、ご紹介したいと思います。
民法は範囲が非常に広範で、基本書も数多く出版されています。そこで、今回は民法の各分野につき、おすすめできる基本書を一部抜粋してご紹介したいと思います。
2 基本書
1 民法の基礎1総則・2物権(佐久間毅著・有斐閣)
民法総論と物権でまずもって挙げることができる基本書は、本書です。
本書の特徴は、Caseという数行の事例問題がいくつも記載され、当該問題に対する規範とあてはめが明確に記載されていることです。
また、要件事実にも意識した記載がなされ、いかなる事実が要件事実となるのか、主張立証責任はいずれにあるのかについても記述があるため、実体法の理解を深めると同時に要件事実についても同時に学習をすることができる構成になっています。
もっとも、記載内容はやや難解なところもあるため、読み進めるにあたり、わからないところがあれば一般読み飛ばし、一度最後まで読み込むことを意識することが大切です。その点では、中級者から上級者向けの基本書といえるでしょう。
通読向き ★★★★☆
わかりやすさ ★★★☆☆
おすすめ度 ★★★☆☆
https://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641138988
2 担保物権法(松井宏興著、成文堂)
担保物権法では、本書がおすすめです。担保物権法に特化した基本書として、他には道垣内先生の担保物権法の基本書がありますが、道垣内先生の本は内容が高度であり、司法試験との関係ではオーバースペックな印象を受けます(もっとも、譲渡担保に関する分野については、是非とも道垣内先生の本を参照することをおすすめします)。
本書の特徴として、何より記載がくどくなく、簡潔に論じられているという点です。
わかりやすさ、という点では本書が群を抜いていると思います。その反面、記載がやや淡泊になっている箇所もありますので、本書では物足りない方は上述した道垣内先生の本を参照するとよいでしょう。
通読向き ★★★★☆
わかりやすさ ★★★★★
おすすめ度 ★★★★☆
https://www.seibundoh.co.jp/pub/search/033744.html
3 債権総論(中田裕康著、岩波書店)
債権総論では、本書と後述する潮見先生のプラクティス民法債権総論のいずれか2択になると思います。
本書の特徴としては、事例の記載は潮見先生の本と比較すると少ないものの、内容がかなり深く、債権総論については本書1冊があれば十分である印象を受けます。その分、初学者の方が本書を読んだとしても、結局内容を理解することができずに終わってしまう可能性が非常に高いため、中級者から上級者が手に取るべき本であるといえます。
潮見先生の本よりも内容を深掘りしたいという方にはぜひおすすめです(なお、潮見先生の本も十二分に内容は深いですのでその点は誤解なきようです)。なお、本書はかなりの分量がありますので、通読向きではなく、部分的に必要なところを読み込むといった利用方法がよいと思います。
通読向き ★★★☆☆
わかりやすさ ★★★☆☆
おすすめ度 ★★★☆☆
https://www.iwanami.co.jp/book/b524924.html
4 プラクティス民法債権総論(潮見佳男著、信山社)
中田先生の債権総論と比較されることの多い本書。潮見先生が記載しているということもあり、非常に切れ味のよい、内容となっており、大変おすすめです。
また、事例問題も随所にちりばめられており、実体法の理解がより進む構成となっています。もっとも、内容は高度であり、初学者にはおすすめできません(その点では中田先生の債権総論と同様に中級者から上級者向けの本になっています)。また、まずまずの分量がありますが、読んでいくと意外にも読みやすく、一気に読み込むことができます。
通読向き ★★★★☆
わかりやすさ ★★★☆☆
おすすめ度 ★★★☆☆
https://www.shinzansha.co.jp/book/b505254.html#
5 基本講義債権各論Ⅰ契約法・事務管理・不当利得(潮見佳男著、サイエンス社)
契約法、事務管理、不当利得では、本書1択であると感じます。
分量もちょうど良く、また内容面も大変充実しています。司法試験との相性も大変よく、ぜひ後述する不法行為法に関する本と共に読み込んで頂きたい一冊です。
通読向き ★★★★★
わかりやすさ ★★★★☆
おすすめ度 ★★★★☆
https://www.saiensu.co.jp/search/?isbn=978-4-88384-904-8&y=2022
6 基本講義債権各論Ⅱ不法行為法(潮見佳男著、サイエンス社)
上述したように、不法行為法についての基本書では、本書1択であると感じます。
本書では、学説に対立があるところについても、丁寧に解説しており(この説を取るとこの思考過程の故、この結論になる旨が明確に記載されています)、初学者の方にもおすすめできる本です。
通読向き ★★★★★
わかりやすさ ★★★★☆
おすすめ度 ★★★★☆
https://www.saiensu.co.jp/search/?isbn=978-4-88384-336-7&y=2021
7 家族法(窪田充見著、有斐閣)
家族法では、本書が大変わかりやすいです。
具体的な事例が豊富に記載されているだけでなく、内容もかみ砕いた記載がなされており、初学者にもお勧めすることが出来ます。やや分量が多い印象を受けますので、通読できる方は通読し、通読が困難な方は部分的に読み込むかたちで利用するのもよいと思います。
通読向き ★★★☆☆
わかりやすさ ★★★★☆
おすすめ度 ★★★★☆
https://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641138186
8 呉明植基本書シリーズ(民法総論、債権総論、債権各論、家族法)
伊藤塾の専任講師である呉先生が執筆した予備校本です。
内容の充実さや司法試験との相性、記載内容の正確さ等、どの点をとっても司法試験合格という観点から抜群のおすすめ度です。
本書をベースに、より深掘りしたいところについては上述した基本書を活用するといったかたちで勉強をすることをおすすめします。
通読向き ★★★★★
わかりやすさ ★★★★★
おすすめ度 ★★★★★
https://www.itojuku.co.jp/book/newbook/shihou/go_kihon.html
3 最後に
以上、民法の基本書についてご紹介しました。
民法は範囲が膨大で、どこから手をつけたらいいか迷われる方が大変多い科目です。本記事を参照にして頂き、少しでも基本書選びの指針になれば嬉しく思います。