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検察修習の振り返り

検察修習の振り返り

1.検察修習でやることあれこれ

修習4クールの中で、おそらく検察修習が、最も実務に近いところまで見られるのではないかと思います。というのも、検察修習では、公判を除いて、検察の業務をほぼ全部任されるためです。具体的には、冒頭陳述・論告の起案、被疑者取調べ、取調べ後の面前口授(後記にて詳述)はもちろん、足りない証拠があった場合は警察へ電話をかけて補充を求めたり、証拠についての問い合わせをしたりすることもあります。処罰感情や被害回復状況(被害弁償の有無、被害品が還付されたとしても再度販売できるものかなど)を確認するために被害者へ電話をかけることもあります。そのほか、証拠分けという、送致された事件の証拠から裁判所へ提出する証拠を分別する作業も任されます。検察実務を体験するだけでなく、刑務所などの施設見学もあります。これら点で他のクールの修習よりもかなり実践的なものが多いと思います。

検察庁は、庁内に「司法修習生室」なる修習生専用部屋が用意されていることが多いようです。私の修習地の検察庁も修習生室があり、そこで同期とワイワイやっていました。裁判修習のように指導担当と終始睨めっこする(?)わけではないので、比較的のびのびとできるのではないでしょうか。

2.事件処理の流れ

(1).大まかな概要

事件が送致されると、まず問題点の洗い出しを行う必要があります。問題点を可視化するとともに、現状を報告する目的で「事件検討メモ」という内部資料を作成します。事件検討メモは、次席検事も目を通す書類です。気合を入れて作成することをオススメします。

事件検討メモ作成後は、事件検討メモを作成する中で補充すべき事項や取調べで聞いておくべき事項を自分なりに考え、補充捜査や被疑者取調べに進みます。その後、起訴・不起訴の終局処分の判断にするにあたり十分な証拠が揃えば、起訴状及び内部決裁資料又は不起訴裁定書及びその別紙を作成の上、次席→検事正の決裁を経て終局処分を行う、というのが大まかな流れです。

(2).身柄事件の場合

被疑者を勾留して身柄拘束を伴う身柄事件の場合は、周知のとおり拘束期間について厳格な期間制限がある(刑訴法203条以下)ため、スケジュール管理が極めて重要です。時間が足りない場合(ほとんど足りないですが)には、勾留延長請求(刑訴法208条2項)を行いますが、その際も延長請求書と別紙を作成の上、次席検事の決裁をもらう必要があります。

3.記録の読み方

記録の読み方、つまりどういう点に着目して記録を読み進めるかについては検事からレクチャーされ(たのを同期を介して教えてもらい)ました。参考程度にこちらに書いていきます。

目を通す順番としては、犯罪事実→被疑者の弁解・被害者の供述の順に読み進めていくのが有益です。そして、証拠を読みながら、重要そうな箇所に付箋を貼るなどして見返すことができるようにしていくといいでしょう。その際には、

  1. 被疑者弁解は認められるのか、犯罪事実を認定できるか
  2. 犯行の日時・場所・(財産犯の場合は)被害金額を認定できるか
  3. 身柄事件か、その場合満期がいつなのか

の3点を意識するのが重要です。

事案によっては手続の適法性が問題となる事件(薬物事件などで顕著)もありますので、手続上問題がないかについても一応確認しておきましょう。

加えて、少なくとも公訴事実は起案し、訴因として特定できる程度に事実が揃っているかを必ず確認すべきです。私も、事件検討メモ作成の段階で起訴状は作成するようにしていました。

4.補充捜査指示等

証拠が足りない場合には、警察へ電話をかけて補充捜査をお願いすることもあります。このとき心がけてもらいたいのは、「警察も暇ではない」ということです。ごく当たり前のように思われるかもしれませんが、重要な捜査であっても「その捜査がなぜ必要なのか」を理屈付けてお願いしないと、忙しいことを理由に動いてくれないこともあります。私がお願いした時は断られることはなかったのですが、捜査をお願いする目的及び趣旨は説明できるようにしてから電話をかけた方が無難かと思います。

また、これはマナーとしてですが、言葉遣い(適切な敬語の使い分け)・挨拶(「お世話になっております。」など)に気をつけましょう。加えて、必ず電話をかける相手が本当に担当の人か、あるいは本当に被害者本人かを最初に確認してください。これを怠ると、個人情報を第三者に漏洩する危険もあります。

5.被疑者取調べ・面前口授

(1).取調べ

私の場合ですが、実際に調書を作成する取調べの前に、自由に被疑者に聞いてみるフリーな取調べの時間を作ってもらいました。もっとも、ほとんどの修習生はぶっつけ本番だと思います。記録を読んで、構成要件に該当する事実だけでなく、信用性につながる事情などもある程度リストアップして、質問する内容を考えておくなどの準備をしておくべきしょう。私も、フリーの取調べ後に行う調書を作成する取調べは、後述の面前口授の準備も兼ねて、事前に質問用のメモを作りました。

個人的に気をつけた方がいいと感じるのは言葉遣いではないかと思います。修習生は、(私も含め)育ちの良い人が多く(?)、取調べの際も敬語を使って被疑者の話を聞く方も多いと思います。言葉遣いが適切なのは本来褒められて然るべきですが、特に謙譲語を用いた取調べは堅い印象を与え、被疑者が話しにくい雰囲気を作るおそれもあると思います(個人の感想です。)。タメ口を積極的に勧める趣旨ではありませんが、取調べは接客ではないので、せめて「ですます」調に止める方が好ましいのではないでしょうか。

(2).面前口授

取調べ結果の調書を作成する際は、「今まで話してもらったことがあなたの話したことで間違いないか」の確認をする(私自身は、刑訴法198条2項の「調書は、これを被疑者に閲覧させ、又は読み聞かせて、誤りがないかどうかを問い」に相当する作業と理解しています。)趣旨で、検察官が取り調べた結果を口頭で文章化し、その口頭で言った結果を検察事務官がタイプしてまとめる作業をします。これが面前口授です。

慣れないうちはなかなか大変な作業なので、ある程度準備していかないとできないと思います。私の場合、①事前にある程度質問の内容を決め、答えを書き込める状態の文書を作成しておきました。そして、②取調べ中は被疑者の話した結果を書きとめながら取調べを行い、③書きとめた話を下書きのメモとそれに対応する答えを読みながら文章化して、被疑者に確認してもらいつつ、事務官にタイプしてもらう、といったスタイルで口授を行いました。

口授のポイントとしては、文章を書くときの基本でもありますが、(a)主語述語を対応させた簡潔かつ明快な文章にすること及び(b)当然の前提とされていることについても省略せずきちんと文章化することの2点を指導されました。読者の皆さまにも上記2点は心がけていただきたいと思います。

6.冒頭陳述・論告求刑等起案

当該箇所は、検察講義案をお手元に置いて、適宜検察講義案を参照しながら読み進めることをおすすめします。

(1).冒頭陳述

冒頭陳述とは、事件の全容を明らかにして審判の対象を明確にし、立証方針の大枠を示すことで、裁判所に証拠調べについての訴訟指揮を行わせ、被告人に防御の範囲を示す手続です(刑訴法296条1項本文、検察講義案137頁参照)。

冒頭陳述を書く際は、検察講義案284頁以下を参考にする場合が多いと思われます。この記載例のうち、「被告人の身上経歴等」は、被告人についての人物像を記載します。バックグラウンドがどこか、仕事や結婚歴はあるかなどのほか、法定刑を示す趣旨で前科についても記載します。

次に、「犯行に至る経緯及び犯行状況等」については、文字通り、犯行に至るまでの流れや犯行状況を記載します。冒頭陳述が審判対象を明確にするためのものである以上、争点となりうる事項については記載しておく方がよいと思います。なお、公訴事実と被る箇所については「公訴事実に同じ」というように省略もできるようです。
最後の「その他情状等」は記載しないお飾りの項目らしいです(ここの存在意義とは・・・)。

(2).論告求刑

論告とは、証拠調べ後に行われる事実及び法律の適用について検察官の意見を指します(刑訴法293条1項、講義案175頁参照)。

論告についても、検察講義案297頁の記載例をもとに書いていきます。最初の「事実関係」については、認めている限りであれば講義案同様簡潔に書いて構いません。被告人が否認している箇所についてのみ検討すれば足ります。

次に、「情状関係」については、法定刑で参考になるべき事項を記載します。量刑を考える場合、一定の社会的類型(どの犯罪か、被害者や被害金額は、傷の程度はなど)を念頭に置いて量刑を検索することになるはずです。ここでも、量刑を考える際、本件の事件がどの社会的類型に当てはまるかを、量刑を考える際の参考にする趣旨で、柱書きでどのような犯罪類型かを示します。そのうえで、記載例(1)以下で示しているように、本件の固有の事情について記載していきます。

人にもよりますが、最後の箇所で被告人に有利な事情についても簡潔にまとめて触れておくと、裁判所に「有利な事情に触れた上でなおこの刑を求刑する」という姿勢を示すことができるようです。

求刑ですが、量刑データベースに頼る前に、まず「自分の感覚でどの刑が妥当か」を考え、その相場感が誤っていないかを確認する趣旨で量刑データベースを参考にするべきと次席から指摘されました。

余談ですが、検察一斉起案の際、私は「量刑データもないのに法定刑を勝手に決めていいのか」とかなり悩み、結局法定刑のまんま求刑することにしましたが、先の次席の指示及び一斉起案のコメントで「軽いです。」と指摘されたことからすると、自分の感覚で求刑を決めていいのではないかと思います。

(3).勾留延長別紙

終局処分決定が勾留期間満了前に間に合わない場合、勾留延長の決裁を受ける必要があります。その際、勾留延長請求書と「やむを得ない事由(刑訴法208条2項前段)」としての勾留延長別紙を起案する必要があります。別紙には、①今までどのような捜査を行い、②何が終わっていないかを論理立てて説明する必要があります。

7.決裁

検察クールの中で、最も検察の“組織らしさ“が出る場面ではないでしょうか。

公判請求及び不起訴処分については、次席検事と検事正の決裁が、勾留延長の場合は次席検事のチェックを経ることが必要です。

決裁の際は、公判引継事項書などの書面を作成の上、事件の概要、事実認定上・法律上の問題点、日時場所の具体的な特定、証拠構造などについて詳しく聞かれます。そのため、事前に質問を予測して対策を立てた方が良いでしょう。そこそこドヤされるため、心して挑むことを勧めます。笑

8.施設見学等

検察クールでは、刑事施設についても見学できます。コ〇ナの影響もあり、私は、刑務所及び検察庁内部しか見学できませんでした。刑務所では、所内の処遇や出所後に向けた構成プログラムなどを見学させてもらいました。個人的には、触法障害者や受刑者・被収容者の高齢化などの、昨今の刑事施設内の問題点も予め学んだ上で見学することをおすすめします。某局の「報道特○」はよく刑事施設の特集を扱っていたと記憶しており、予習としてそういう番組を視聴してみるのもいいかもしれません。

また、私の修習地だけかもしれないのですが、検察庁内部の犯罪被害者・被疑者更生支援の担当者からの講義も受講させてもらいました。この部分についても、刑事政策をある程度学習しておくと講義の際に気付きや学びを得られると思います。検察クールまでに時間のある修習生に限らず、受験生・ロー生の皆さまは刑事政策を勉強されることを強く勧めます。

9.証拠分け

証拠分けとは、公訴提起した場合、起訴状とともに裁判所に提出する証拠を選別する作業をいいます。裁判所には送致された証拠の全てではなく、ある程度証拠を選抜して、ベストエビデンスのみを提出します。何がベストエビデンスかを考える際は、“この証拠をどういう趣旨で証拠調べ請求するのか“を考えるといいと思います。

私は、後から突っ込まれた際にも即答できるようにしておく趣旨で、証拠分けしたあとエクセルで表を作成し、それぞれの立証趣旨を簡潔にまとめたものを作成して、指導担当に提出するようにしていました。

10.検察一斉起案

(1).総論

検察起案で一番重要なことはおそらく“終局処分起案の記述及び教官の指摘に忠実になること”ではないかと思います。正直私の記事よりも終局処分起案の考え方を呼んだ方が起案対策としてはいいかもしれません(私の記事も適宜参照していただけるのであれば、これほど嬉しいことはないのですが・・・)。

あと、司法試験と同様に、事実をできるだけ多く摘示し、摘示した事実を適切に評価すること及び起案案要領をよく読み、検討すべき事項は何か及び検討が省略されている事項は何かをチェックしておくことも重要です。

(2).犯人性

ア.間接事実の抜き出し方

個人的に、犯人性の中で「間接事実としてどこまでを含ませるか」が最大級の鬼門な気がします。導入で教官が、「間接事実の概要を読んだだけで犯人側の事情と被疑者側の事情の両面に触れることができるようにすべき」と仰っていたのを思い出し、問研起案の際はそれを意識して長めの間接事実と構成して書くことにしました。研修所の想定した間接事実とは似ても似つかない間接事実となってしまいましたが、教官から「比較的良く検討できています。」とコメントされました。(修習生との比較なのか、他の箇所との比較なのかは1ミリもわからない記載なのですが・・・)ポイントとしては、上記の教官のご指摘のように、「“犯人・事件側の事情“と“被疑者側の事情“の両面に触れることのできるミニマムの事実」を間接事実として構成することのような気がしております。

間接事実ごとに時間をはっきり明記しておくのも有効っぽいです。これは、間接事実段階で時間を限定することにより、反対仮説が限定され「その時間内にその可能性が起きることがあり得るのか?」と主張を排斥しやすくなる結果、反対仮説を潰しやすくなるためらしいですね。そのため、間接事実を考える段階において、その間接事実が「どの時点におけるものなのか」を意識する姿勢が重要になってくると思います。

ウ.事件の概要・証拠の引用

事件の概要を書きましょう。教官に確認したところ、最初に比較的詳細に書いておけば、2つ目の間接事実以降は省略して書いてもいいっぽいです。また、事件の概要の箇所では、間接事実ごとに間接事実につながる事情に言及しておくと印象が良いとのことです。

次に、事実認定の際は証拠の引用が必須です。めんどくさがらず、必ず証拠を引用しましょう。検察講義案の公訴事実の記載例の次あたりに略語一覧があります(これを探せないと、前述の私みたいに変な文字数で解答用紙を無駄にすることになりますよ・・・)。そして、犯人性を検討する際の事実認定段階では、「事実」を引用すべきで、できる限り評価を入れないことが大事っぽいです(例えば、「侵入し」ではなく「立ち入った」と書くなど。)

エ.被疑者供述の使い方

終局処分でも言われていますが、「被疑者供述は犯人性の検討には使えません。」意味づけで反対仮説に言及するのもご法度です。

また、供述の信用性を検討する場合、終局処分起案で指摘されている「供述の信用性を基礎付ける事情」以外の事情を使って信用性を検討すると点が入らないっぽいですね(終局処分で指摘されている事情以外で信用できると言い切れるものがあるのかは甚だ疑問ですが・・・)。信用性の検討は、起案要領の指示で省略されている場合を除いて忘れないようにしましょう。

オ.秘密の暴露

教官曰く、秘密の暴露がある場合には、“何に対する暴露“かを意識すべきだそうです。罪体に関しないものについての秘密の暴露は証拠力としては小さいので、どこに対する暴露かを意識する必要があるみたいですね。

(3).犯罪の成否

司法研修所的には、三段論法を守って欲しいみたいです。最低でも、実行行為は三段論法を守りましょう。

私は完全に失念しましたが、構成要件の列挙を忘れないようにしましょう。結構しつこく言われましたし、おそらくここにも点数があるはずです。

文言の意義はできるだけ判例を踏まえるのが無難です。結果無価値論者は、起案の時だけ自分に嘘をついていただきたいと思います(というか、ほとんどの人が司法試験で捨ててる立場かもしれませんが・・・)。あてはめの際は、事実認定も忘れないように。もっとも、犯人性で供述の信用性に触れている場合が多いため、「前記のように〜」とさらっと書いて差し支えないと思います。あてはめの際も、判例の文言に沿った形で検討できるとよきです。故意などの主観的構成要件要素もお忘れなく。

11.おわりに

以上が私なりの検察修習の振り返りです。検察修習がまだの修習生や受験生に対し少しでも検察修習のイメージが湧いたのであれば、私としても幸甚です。

全体の反省としては、「もっと検事にズカズカ聞いてもよかったかなあ」と思うくらいですかね。検事が過去に担当したいろんな事件の話や苦労したことなどをズケズケ踏み込んで聞けるのは修習生の特権のはずですし、そこはもっと聞いても良かったかなと思います。

あと、事件現場が近くであれば、実際に現場に行って見ることをお勧めします。私は実際に行って、おおよその現場の位置関係を把握するのみで何ら手がかりを掴むことはできなかったのですが、次席決裁のときに役立ちましたし、何より現場に行ったことをめちゃめちゃ褒められました。笑

次回以降の振り返りもお楽しみに。最後まで読んでいただきありがとうございました。

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